米林宏昌監督が語るように、『思い出のマーニー』は何度も観てもらえるように作られています。
何度も観てもらえるように、というのは『楽しくて何回でも観ちゃう!』というのとはちょっと違います。
この場合の『何度も観てもらえる』は、1回目と2回目以降では『見方が変わる』という意味。
1回目は何も知らずに観るので、杏奈とマーニーの友情の物語として観ることができます。
そして、内容を知った上での2回目は・・・
杏奈とマーニーの『友情』というよりも、失った時間や心を埋めるように進んでいく2人の『愛情物語』として観ることができるのです。
そしてこれこそが、米林宏昌監督が『思い出のマーニー』という作品に込めた、内容を知った上で『もう一度観たい』と感じさせる仕掛けでもあります。
目次
思い出のマーニーのあらすじ
北海道の札幌で、育ての両親を暮らす『杏奈』は、養母の頼子が杏奈を育てるための給付金を受け取っている事を知り、心を閉ざしてしまいます。
お金が無ければ一緒にいてくれないのかもしれない・・・
『普通』のクラスメイトと違って、杏奈は『醜くて、バカで、不機嫌で不愉快、自分が嫌い』
友達を作るのが苦手で、いつも無表情。
僕を愛してくれる人なんているのかな…😢僕はもしかしたらひとりぼっちなのかもしれない…😢そんな風に思ったことがある方…今週金曜よる9時は是非「思い出のマーニー」をご覧ください📺じんわりしみますぅー😭僕…ひとりぼっちじゃなかったんだ😊#kinro #思い出のマーニー #ジブリ pic.twitter.com/JjaLebTKU3
— アンク@金曜ロードSHOW!公式 (@kinro_ntv) July 10, 2017
喘息の持病の療養と、心のケアを兼ねて田舎町に住むおじさんおばさんの家へ行くことになった杏奈は、その地で不思議な少女『マーニー』と出会って少しずつ心を開き、重要な事に気づいていく、というストーリーです。
思い出のマーニーのネタバレ
1回目を観た方なら、『ネタバレ』部分が何だかわかりますね?
そう、『マーニー』=『杏奈のおばあちゃん』。
この事実は物語のラストで判明するのですが、実はこの作品、マーニーが杏奈のおばあちゃんだと知ってから観ると、セリフや内容も違って見えてきます。
つまり、これが米林宏昌監督の『仕掛け』の正体です。
例えば、マーニーが初めて杏奈に自己紹介をするシーン。
『あなたの名前も知らない』と言う杏奈に対して、マーニーの答えは『知ってると思ってた』。
杏奈はここへ来たばかりだというのに、『ずっと見てた』というのも気になりますね。
マーニーは、自分が杏奈のおばあちゃんである事を知っていかのようなセリフです。
杏奈とマーニーは過去の世界で会っている
この物語は、明らかに現実の世界と、現実ではないと思われる世界の両方で話が進んでいきます。
杏奈の生きている世界が『現実』のものだとすると、そうではない世界はどこでしょうか。
マーニーが大好きだった湿っち屋敷、子供の姿のマーニー・・・
これらから、マーニーと会える世界は『マーニーが生きていた過去』と考えられます。
『夢の中』というよりも、意識が過去の世界へ飛んでいると考えたほうがしっくりきます。
もらわれっ子の杏奈が自分のルーツを知るための『過去の世界』であり、マーニーが過ごしてきた時間である『過去の記憶』。
『また私をさがしてね』というマーニーのセリフから考察すると、杏奈がマーニーと会いたいと願う事で会えるのでしょう。そして、『屋敷から離れられない』マーニーと会うためには、湿っち屋敷の近くで『マーニーを探す』事が必要なのかもしれません。
種田さんはもともと実写畑で世界的に著名な美術監督で、本作でも立体模型を作って建物のスケールを検証したり、カメラアングルを考えたりと、実写の美術の手法も採り入れて作業を進めました😊 #ジブリ#思い出のマーニー pic.twitter.com/Nqv2oWOInM
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湿っち屋敷が『テレビ』だと考えると、テレビを視聴するためにテレビの近くに座って、観たい番組を選ぶイメージでしょうか。
思い出のマーニーの各シーンを改めて考察
『マーニーが杏奈のおばあちゃん』だと知ると、各シーンでの見え方も断然変わってきます。
視聴1回目と2回目以降とで、見方の変わったシーンを比較しながら紹介しますね。
マーニーと会って過ごす時間
一緒にボートに乗ったり、お菓子を食べたり。
友達作りが下手で、いつもひとりでいた杏奈にとって、『友達』を感じさせてくれたのがマーニーです。
視聴1回目では、不思議な少女マーニーと杏奈が偶然に出会い、なぜか気の合う友人として交流しているように見えました。
しかし、視聴2回目、人付き合いが苦手な杏奈に、友達とはこうやって仲良くしていくんだよ、簡単でしょ?というのを教えてくれているようにも見えてきます。
実は、マーニーさんと杏奈さんのキャストを決めるオーディションは、それぞれの役で分けて行ったわけではなく、参加した人全員に両方の役を演じてもらったそうです。その場で二人一組になって、セリフを入れ替えたりしながらのオーディションだったそうです🤓 #ジブリ #思い出のマーニー pic.twitter.com/joCrLRsmNq
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実際、マーニーとしばらく過ごした後に出会った『彩香』とは、何の苦労もなく仲良くやっているんです。
杏奈への質問
お互いを知るために『3つの質問』をする場面が出てきますね?
マーニーの杏奈への質問は
- あなたはなぜこの村にいるの?
- おばちゃんって誰?
- 大岩さんのところの生活はどんななの?
視聴1回目は、当然ですが、『出会ったばかりの杏奈の事を何も知らないから教えてほしい』というマーニーの興味本位の質問なのだと思いました。
しかし、視聴2回目、マーニーは『自分が死んでしまった後の様子』を杏奈の口から聞こうとしているように感じられます。
サイロでの出来事
『サイロは怖い』
そんなマーニーの弱点克服のために、杏奈はマーニーと一緒にサイロへ向かいます。
物語に登場するサイロは、原作では風車だったそうです。しかし、日本では原作に出てくるような風車で実用のものは存在しないそうで、北海道という舞台にぴったりなサイロに変更したそうですよ😃 #思い出のマーニー #ジブリ pic.twitter.com/fEquGqxR9m
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しかし、どういうわけかマーニーがいなくなり、杏奈は一人でサイロへ向かうのですが・・・
なぜか、既にサイロには恐怖のあまり震えて泣いているマーニーがいる。
映画では、このサイロのシーンだけ、なぜか『誰かの過去を覗いている』ような描写になっています。
その他の場面では、杏奈とマーニーの交流が描かれているのに対し、サイロではマーニーを助けに来た和彦の姿を杏奈が眺めている。
そう、これはマーニーの過去の記憶。
和彦が暗くて怖いサイロから動けなくなっていたマーニーを助けてくれた時の『記憶』です。
幼い杏奈に『その時おじいさんが・・・』って話して聞かせるくらいですから、マーニーにとってサイロでの出来事は『和彦との思い出』として、非常に印象が強かったと思われます。
1回目視聴時、マーニーの記憶を辿っているような描写のため、確かに『過去のその時』杏奈はサイロにはいない。その後の別れのシーンで、マーニーにも理由はよくわからない。だけど杏奈はそこに『いなかった』から、結果として置いてきてしまったのだという『言い訳』をしているのだと思いました。
しかし2回目視聴時、杏奈のおばあちゃんであるマーニーが、誰からも愛されていない自分に悩んでいる杏奈を助けたいと思っていたと考えると、全く違った印象を受ける場面でもあります。
それまでは、『マーニーが杏奈を』助けていたけれども、サイロでは『杏奈がマーニーを励まし続けた』。つまり、マーニーにとって、助けるべき存在の杏奈が『いない』状況です。
後にマーニーが、サイロに杏奈は『いなかった』と叫ぶシーンがありますが、杏奈が強くなって現実世界で生きていける力を身に付けたことにより、マーニーからは『弱い杏奈』の存在が『見えなかった』とも考えられます。
杏奈がぼんやりとしたまま見た、迎えに来た和彦とマーニーが一緒に立ち去ってしまう場面。まるで死を迎えたマーニーが、先にあの世で待っている和彦と一緒に杏奈を置いて旅立ってしまったようにも見えます。
和彦は原作ではエドワードという名前です。#思い出のマーニー #金曜ロードショー pic.twitter.com/HlMxXUswwp
— キャッスル (@castle_gtm) July 14, 2017
別れの時
サイロでの一件でモヤモヤした気持ちのままの杏奈。
長く雨に打たれたため高熱を出し、寝込んでうなされながらも、マーニーが自分を置いていったことを悲しみ、そして激しく怒っています。
熱でうなされて意識がもうろうとしているのでしょう。
寝ている杏奈とは別の、パジャマ姿のままの杏奈が『湿っち屋敷の世界』へやってきます。
そして置いていった杏奈に許しを請い、杏奈がマーニーを許すシーン。
鑑賞1回目は、2人の間にある『友情』の確信の場面なのだと感じ、置いていったつもりはなかったマーニーの必死の謝罪の気持ちを杏奈が受け入れた、そんなシーンなのだと解釈していました。
しかし鑑賞2回目は・・・
置いていったことを謝るマーニーと、それを許す杏奈。
もう、杏奈を残して亡くなったマーニーの謝罪にしか聞こえません。
変わろうと願う人だけが変われると、ぼくは思っているんです
米林宏昌監督
『誰からも愛されていない』と思っている杏奈に『それは違う、間違っている!』と伝えたい。杏奈をひとりにしてしまった事を許してほしい、そばにはいられないけれど、愛していないわけではない。
今でもずっと愛している、愛している人がいることをわかってほしい、というマーニーの強い思いが、杏奈とマーニーを引き合わせたようにも感じられます。
まとめ
『思い出のマーニー』は鑑賞1回目と2回目以降で物語や登場人物の見方が変わるという珍しい作品です。
そして謎だらけの物語のように感じる人も多いでしょう。
しかし、実は原作本では、この映画に見られるような『暗さ』や『謎』はほとんど感じることはありません。
どちらかと言えば、わかりにくいと感じる部分や疑問を感じる部分が丁寧に説明されています。
あえてミステリー調になったとも思われる米林宏昌監督の『思い出のマーニー』。
原作とは全く異なった設定ではありますが、2回目以降を楽しむという意味では原作よりも映画版が優位に立っています。
1回目は杏奈の気持ちに寄り添って、2回目はマーニーの気持ちに寄り添ってみる。
『思い出のマーニー』はマーニーの正体を知った後、もう一回楽しむのがオススメです。
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